001文

 すらっとしていて、テキパキ移動する姿は、イメージどおりであったし、断片的に聞いた話のとおりだった。

 私が事前にアドバイスしてあったので、厚手のコートを着込んでいた。この地方の三月の夜はまだ寒い。

 この待ち合わせ場所に着くまでに、私は結構迷った。地元といっても、少し遠いので、滅多に来る場所ではなかった。駅の反対側の出口まで行ってしまった。徒歩だったら、それでも簡単にどうにかすることができたけれど、車だと思うように反対側へ行くことはできなかった。

 彼を見つけるために携帯電話を使う。駅前を行き来する人、一人ひとりをよく見ていると、私が電話をしたタイミングで、電話を取る人が一人だけいた。

 電話で車の特徴を述べつつ、急いで、車をロータリーの歩道側へ寄せ、彼に向けて手を振る。彼は、電話をたたんで仕舞い、分厚いコートを脱ぐと左手にかけ、こちらへ歩いてきた。

 無駄な動きはなく、さっと車に乗り込んだ。初対面であれば、何か仰々しい挨拶をする人もいるけれど、ずっと前からの知り合いであったがごとく、当たり前のように乗車した。

「あ、どうも。きららです。」

 彼は軽く、会釈をした。

「お迎えが遅くなって、すみません。思ったより、あっちを出るのが遅くなってしまって。こちらは、スキーの帰り途中のHさん。」

 私は、ついさっきまで、別のオフのスキー旅行に顔を出していた。そして、それもまだ、少し続いている。帰りのバスが取れなかった人が、この車内に一人いる。あちらの人間関係もあるので、私は簡単に宿を発つことができなかった。

「いや、想定の範囲内なので。」

 彼は、あっさりそう答えた。確かに、彼と知り合うきっかけとなったゲームの住人たちは、かなり時間にルーズだ。

 彼のしゃべり方は、物静かな感じで、あまり無駄なことを言わない雰囲気だ。常々思うのだけれど、私は言葉をあまり知らないので、一つのことを表現するのに、かなりの長文になることが多い。一言で言えることを、説明しないといけないからだ。それに対して、彼は何かを伝えるときに、一言で充分な様子だ。それが、このときの印象だった。

「黒川さんって、しゃべり方がDとSを足して2で割った感じがするね。」

「ぷ。」

 ネットでの知り合いで、会ったことのある人を例に挙げてみた。なんだか知らないけれど、笑われた。私が何かしゃべると、たいてい、噴出されるか、鼻で笑われるかだった。でも、それはそんなに嫌な感じではなかった。ゲームの世界において、どちらかと言えば、いつもツッコミ役の彼に慣れていたからだろうか。



 彼と知り合ったのは、ネット上のゲームがきっかけだった。話し合いで物事を進めていくゲームだったので、プレイスタイルや、ゲーム終了後のおしゃべりで、何となく相手の人柄や性格、雰囲気が推測できた。
 このゲームを始めるまで、オフ会というものに参加するなんて夢にも思っていなかったけれど、私はそこで知り合ったプレイヤーたちと、既に何度か実際に会っていた。
 私にとって、そのゲームに集まる連中は、高校時代の友人達の様で、何かとても懐かしかったと同時に、安堵感をもたらしてくれた。

 私がゲームに参加するようになったのは、転職がきっかけだった。前の職は、拘束時間が長すぎて、ゲームどころではなかった。新しい職は、拘束時間は短くはないにしても、前のより明らかにマシで、給料はあまり変わらなかったので、生活に余裕が出てきた。加えて、仕事が終わる頃に、ゲームに人が集まり、ちょうど盛り上がる時間帯に参加できたのだった。
 だが、その仕事も先月いっぱいで終えたところだ。今度は、資格を取得するために、四月から短大へ通う。今は、その前の春休みだ。ただの無職とも言うが。


「ちゃんと、厚手のコート持ってきたんだー。今はあったかいけど、夜は寒いからねー。あ、そういえば、日記に登場していた友人はどうなったの?」

「結局、つかまりませんでした。」


 ゲームで、ネット上の知り合いが増えたことで、私はSNSに参加するようになった。これは、招待状をもらわないと参加できないシステムになっている、一種のコミュニティだ。ただ、会員数はかなり増えているので、そこまで閉鎖的空間ではなくなってきているけれど。そこでの日記の機能はとても便利で、登録してある人の日記が更新されると、自分の専用の画面一つですぐ分かる。

 彼は今日、自分の日記に、友人をそそのかして、長野県行きの特急列車に乗せようとしたという話を書いていたのだった。

「地名を店名であるがごとく言うとか、思いつかないなぁ。」

「さすがに、特急のホームで察した様子です。」


 ゲームで彼の存在を知ってしばらく経った頃に、SNSで彼の日記を読んでいると、彼が日本酒好きだということが分かった。お酒は私も好きなので、今回の企画に誘ってみたのだ。今日は、年に二回、地元の酒蔵五軒の酒が、千円で呑み放題なのだ。

002構成

 あそこまで書いておいて思ったんだが、書くより先に、骨組み考えるべきじゃねー、と思った。

*実際の出会い
*出会うまでの経緯
*呑み歩き
*入学
*富山旅行
*東京にて
*夏休み
*チャット
草津温泉
*後期
*春休み(呑み
*短期講習(第二の出会い

 さて、この後どうするかだが。